「うつぶせ」は身体に良くないと思われている方が多く存在しますが、それはとてももったいないことだと私は思っています。
そういう思いから「うつぶせ1分で健康になる」(ダイヤモンド社)という本を執筆した訳ですが、この本には何故うつぶせが身体にいいのか、医学的、解剖学的に解説しています。
しかし、初の出版で、まずは多くの方に知っていただきたい基本的な内容を主にしたこと。そしてできる限りイラストや大きな写真解説をいれたりでやはり紙面が限られ、本では伝えきれていない事も沢山あります。
そこで、この記事では、「うつぶせ」について色々な角度から本では伝えきれなかったことを解説したいと思います。
うつぶせのメリット
・こわばった身体が柔らかくなる
・腰痛、肩こりの軽減
・猫背の改善
・疲れが取れやすくなる
・よく眠れるようになる
・冷えの症状が軽減する
・風邪をひきにくくなる
・つまずかなくなる
・ぽっこりお腹が凹む
・痰を出しやすくなる
・便秘が改善する
・集中力が高まる
実は、うつぶせのメリットはざっと上げただけで、身体にとってこれだけのメリットがあります。
もちろん効果や体感には個人差もありますし、注意点もあります。
特にうつぶせは身体に良くないと思われている方の理由の多くに、乳幼児の事故などを例に挙げられることがあります。
このうつぶせによる乳幼児の事故が過去にあったのは確かな事実であり、必ず注意すべきことの一つです。
実はうつぶせの注意点としては、「自分で寝返りができない人、頸や頭が持ち上げられない方」については、見守りや付き添いなしでうつぶせをさせない。
というのがあります。このような方ではやはりうつぶせ中に窒息事故を起こしてしまうリスクがありますので、注意が必要でこれは乳幼児であったり、身体の弱った高齢者などがそれにあたります。
ただ、冒頭でも述べたように、だからといって「うつぶせは良くない」と考えてしまうのは非常にもったいない事だと私は考えています。
うつぶせについて正しく理解し、注意点を理解し、リスク管理をしながらうまく生活に取り入れる事は健康にとって、とてもメリットになるだけでなく、私は社会的にもとても意義があることだと思っています。
この記事でうつぶせが健康に与える影響や、うつぶせのメリットをお伝えします。
呼吸リハビリの現場では一般的な「うつぶせ」
そもそも、理学療法士である私が、「うつぶせ」を自信をもって推奨する理由の一つに、臨床経験時代に呼吸リハビリの現場を経験しているというのがあります。
そもそも呼吸リハビリの現場において、この「うつぶせ」は『腹臥位療法』として知られており、肺炎などによって肺にたまった痰を排出する際に非常に重要な体位の一つとして知られています。
この腹臥位療法はエビデンスもあり、呼吸リハビリ関連の書籍でも紹介され、専門家の中では一般的なものになります。
※参考書籍:千住秀明,眞渕敏,宮川哲夫監修:呼吸理学療法標準手技,医学書院,東京,2008.132-138.)
うつぶせの2大メリット『呼吸』と『姿勢』
上記の通り、呼吸リハビリなどの医療の現場においてエビデンスがあるくらいに、うつぶせのメリットとして忘れていけいないのが『呼吸』となります。
その理由を簡単に説明すると、とにかく「うつぶせ」により、より深い呼吸ができるようになります。
うつぶせになることで、重力により内蔵がお腹側へ下がることで呼吸において一番重要な筋肉である横隔膜が動きやすくなります。
この横隔膜がしっかりと働くことで、呼吸が深くなるということが最大のメリットになります。
さらに、うつぶせになることで、背中側の筋肉や関節が動きやすい状態となり、普段空気の入りにくい背中側にも空気が沢山入ることになり、有効なガス交換が行われ、より呼吸が深くなります。
この呼吸が深くなることによって、様々なメリットが得られるようになります。
古来、東洋のヨガや気功などに代表されるように、色々な健康法の手段として「呼吸法」は多く取り入れらており、様々な呼吸法がネット上にも沢山紹介されています。
また、呼吸の改善により、自律神経の調整や、血圧のコントロールなどに有効であるというメリットも聞いたことがある方も多いと思います。
実はうつぶせで得られるメリットの多くが、この呼吸が深くなるという理由のものが多くあり、難しい呼吸法を考えなくても、うつぶせになることで深い呼吸をしやすくなるというのが「うつぶせ」の最大のメリットの1つであると言えます。
尚、呼吸に関するメリットについてはコチラの記事を参照ください。
>理学療法士が伝える理想的な呼吸が健康に与える11のメリット
尚、うつぶせのメリットについて、呼吸と股関節について語っている動画はコチラ
そんな『呼吸』ですが、実は「姿勢」と密接な関係があり、これについても医学的に多くの研究がなされており、エビデンスが出ています。
特に分かりやすのが、いわゆる猫背の姿勢だと、呼吸が浅くなるということが挙げられます。
特に現代人は若い人でも、スマホを長時間見ることによりストレートネックや、猫背になりがちで、そのような不良姿勢では呼吸を深くすることが難しくなります。
しかし、うつぶせになることで、頸部や背骨を真っすぐに伸ばすことができ、姿勢のリセット、改善のためにも非常に有意義な体位であるということが理解できると思います。
そして、この不良な姿勢のリセット、姿勢改善がやはり多くの恩恵を身体にもたらしてくれます。
実際に、ストレートネックや、肩こり、慢性腰痛などで、整形外科や整骨院、治療院に通われた方の多くが、これらの症状の原因として、「姿勢が悪い」と言われたことがあると思います。
また、痛み止めやマッサージなどの対症療法を受けても、すぐに症状が戻ってしまう方は、「姿勢改善」の必要性を感じたことがある方も多いと思います。
この姿勢改善は、ヨガやピラティスなどが有効であると海外では報告があり、海外のリハビリの現場ではピラティスが積極的に取り入れられています。
当然ながら一人一人の身体の状況によっても異なりますが、ヨガやピラティスのエクササイズをすることで、ある程度の効果を得ることができます。
実際、ヨガやピラティスにおいても、「うつぶせ」のポーズやエクササイズが沢山あります。
しかし、その反面、間違って取り組むとかえって関節や筋肉を傷めてしまう可能性もあります。
また、普段からうつぶせをしない方が、急にうつぶせをすると、それだけで頸部痛や腰痛を増強させてしまう可能性もあり、まずは「うつぶせ」に身体を慣らすことから始めるのが安全性が高いといえます。
気が付けば、何年もうつぶせになっていない
こちらの円グラフは、ある高齢者施設で働く従業員(平均年齢50歳の男女)約80人に、普段からうつぶせになる習慣があるかないかをアンケート調査したものです。
左側のグラフでもわかるように、まず一般的にうつぶせを習慣にする人は多くはないようです。
また普段からうつぶせをしない人の75%以上が、1年以上も「うつぶせ」になっていないという人が存在します。
そして、普段からうつぶせをしない人の半数以上の人は5年以上もうつぶせになっていない人が存在したのです。
よく考えたら、普通の成人が日常生活をする際に、「立つ」、「座る」、「歩く」、「しゃがむ」、「寝そべる(仰向け、横向け)」をすることは必須な動作ですが、別に「うつぶせ」をしなくても日常生活を送ることは可能です。
特に「立つ」、「歩く」、「座る」ことをしない、健常成人はいないと思います。
しかし「うつぶせ」は、別にしなくても日常生活を送れてしまいます。
眠るのも、「仰向け」、「横向け」、あるいは「座って」寝れば眠ることは可能であり、仮に日常生活から「うつぶせ」を取り除いたところで生活には一見困らないのです。
実際、高齢者の方に「うつぶせ」の提案をすると、上記のアンケートに示すように「もう何年もうつぶせになっていないから、怖くてできない」という方とよく遭遇します。
その方の日常習慣に「うつぶせ」がなければ、気が付かないうちに何年もうつぶせをしないで、歳を重ねる方が非常に多いなと、私は感じています。
もちろん、上記のデータは母数が少ないですが、知人の理学療法士に聞いてみても、多くの高齢者が「うつぶせ」が苦手であるということを良く耳にします。
なので、そんな方はいきなり、ヨガやピラティスをする前に、まずは1日1分からでも「うつぶせ」習慣を取り入れてもらえたらと思っています。
なぜなら1分程度のうつぶせであれば、だれでも気軽に、かつ安全に取り組めるからです。
特に普段から運動習慣のない方でも、すぐに自宅で始められ、寝る前や起床時などにすれば日常生活にも取り入れやすく習慣化しやすいのもメリットの一つです。
ただ、冒頭にも述べたようにいくつか注意点もありますのでそれらに注意しながら取り組んでいただければと思います。
1日1分からはじめる「うつぶせ」習慣
写真はピラティスマット上ですが、お布団や畳の上でも大丈夫です。ご自身が快適と思える場所で行ってください。
【注意点】
・身体のどこかに痛みや苦痛を感じたらすぐに中止しましょう
・風邪など、体調がすぐれない方、妊婦の方は控えて下さい
・食後は30分以上経ってから行うようにしましょう
・慣れないうちから、うつぶせのまま眠ってしまわないように注意して下さい。(但し、もともとうつぶせで寝ている習慣がある方はOK)
・慣れないうちから、クッションなどを使用せずに、うつぶせのままの読者やスマートフォンの操作などは控えてください
・慣れてきて時間を増やす場合は時々顔の向きを変え、無理しないようにご注意ください
・慣れてくれば1分以上してもOKですが、長くて30分程度までにしましょう。
・その他、医学的にうつぶせを禁止されているときもしないでください。
また、万一うつぶせになることで、首が辛かったり、腰痛が出る方、あるいは反り腰が強い方などはこのようにお腹の下に枕やクッションを入れてください。
写真は座布団が1枚だけですが、人によっては自分が快適になるように、2枚、3枚いれたり、厚みのあるものを使用してもよいでしょう。
うつぶせで大事なのは、「快適さ」なので、無理なく1分できる体位をとれるように、積極的にクッションを利用してください。
※代表が開発したうつぶせ枕はコチラから
うつぶせ実践のポイント
・夜寝る前にするのがオススメ。うつぶせになり、リラクックスできたなと思ったら、普段寝ている姿勢に戻り入眠するとよい。
・慣れてくれば起床時にもうつぶせになると効果的
・初めて行う方、うつぶせで痛みや苦痛がある方は、無理に1分せず、30秒、10秒など、快適にできる範囲で行いましょう。
「うつぶせ1分」がスタート!!
ここまで「うつぶせ」のメリットについて書いてきましたが、実は快適にうつぶせになるだけがゴールではありません。
うつぶせ1分はあくまでもスタートです。もともとはヨガやピラティスに代表されるようなうつぶせでのエクササイズをしていただくことが目標です。ただ、前述したように「うつぶせ」にそもそも慣れていない人が多い。そんな方でも安全に取り組んでいただけるように「うつぶせ1分で健康になる」というタイトルをつけさせて頂いただけであって、本の巻末にはきちんと「うつぶせ」でするエクササイズも掲載しています。
ということで、下にいくつか「うつぶせ」で実践するストレッチや、エクササイズを動画で紹介しています。
尚、こちらの画像は私の開発した「うつぶせ枕」を購入していただいた方のために作成したものですが、ご自宅にある枕やクッションでも代用していただいても問題ありません。うつぶせに慣れてきたら是非、うつぶせでのストレッチやエクササイズにチャレンジしてみてください。そうすることでより、うつぶせのメリットを体感できると思います。
※参考文献
・千住秀明,眞渕敏,宮川哲夫監修:呼吸理学療法標準手技,医学書院,東京,2008.132-138.)
・Elsie G.C, Hilda A.I.J,Cheryl E.K,:Thoracic kyphosis, rib mobility, and lung volumes in normal women and women with osteoporosis. Spine19,(11):1250-1255,1994.
・Mauro D B, Melisenda C, Daniel M, et al : Thoracic kyphosis and ventilatory dysfunction in unselected older persons: an epidemiological study in dicommano, Italy. J Am Geriatr Soc 52:909-915, 2004.
・千住秀明,眞渕敏,宮川哲夫監修:呼吸理学療法標準手技,医学書院,東京,2008.132-138.
・川嶋みどり,丸川征四郎編著,日野原重明監修:看護に生かす腹臥位療法 うつぶせ寝で「身体と心」を取り戻す.日本看護協会出版会,東京,2016.
・川嶋みどり,丸川征四郎編著,日野原重明監修:うつぶせ寝健康法.KKベストセラーズ,東京,2005.
・竹井仁:正しく理想的な姿勢を取り戻す姿勢の教科書,ナツメ社,東京,2015.
・小板橋喜久代,柳奈津子,新村洋未:腹臥位が高次脳機能と自律神経機能に及ぼす影響-腹這い姿勢と脳・心肺機能.看護学雑誌 68巻6号,2004年6月.
・大宮裕子,佐藤彰紘,横山悦子ら:腹臥位姿勢におけるリラクセーション効果.目白大学 健康科学研究科台9号p9-15,2016年
・Moira Merrithew, Beth Evans, Laureen Dubeau, Connie D Ierullo, Rise Karns, Joanna Speller : STOTT PILATES® comprehensive Matwork a fully illustrated manual. Merrithew Corp. Toronto, Canada.2004.
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